エッジAI実機ベンチ大全(β)
自宅ラボの実機(Pi 5+Hailo-10H / Jetson Orin Nano / Mac mini M4 / RTX 4060ノート)を同一手法で実測。LLMの tok/s(GPU vs CPU・モデルサイズ別)、Hailo-10H の YOLO FPS、そして「公称 vs 実測」の乖離を、測定メソドロジーごと公開します。
この実測でわかったこと(要点)
- 1.「GPUは10〜20倍速い」はエッジでは出ない。最大でRTX 4060ノートの7Bで約4.2倍。
- 2.GPU優位の決め手はメモリ構成。専用VRAM(GDDR6)は効くが、統合メモリ(Mac/Jetson)はCPUと帯域共有でほぼ効かない。
- 3.消費者GPUはVRAMを超えると逆に低下(RTX 4060の14Bで×2.2)。
- 4.NPU(Hailo-10H)の真価はYOLOで70+ FPS/分類で300+ FPSのビジョン側。汎用OllamaはNPU非対応でCPU実行だが、Hailo公式ツール経由ならLLMもNPUで動く(速さはモデル次第、下記②b)。
- 5.カタログ値は実機と乖離(TGP公称115W→実機95W等)。タスク別の実測で選ぶべき。
測定メソドロジー(透明性)
競合が複製しにくい一次データほど引用されます。手法を全部公開します(追試歓迎)。
- LLM: Ollama
/api/generate(stream=false,num_predict=128, 同一プロンプト)。tok/s =eval_count ÷ (eval_duration/1e9)。CPU値はoptions.num_gpu=0でGPUを無効化。 - NPU(ビジョン):
hailortcli benchmark(HailoRT 5.1.1、Hailo-10H用にコンパイルした.hef)。 - NPU(GenAI):
hailo-ollama(HailoRT 5.3.0)の/api/chat。CPU対照は同一Pi5上の素のOllama。 - 電力/クロック:
nvidia-smiを生成中に並行サンプリング。 - 機材: RTX 4060 Laptop + i7-13700H / Mac mini M4 16GB / Jetson Orin Nano Super / Raspberry Pi 5 + Hailo-10H。
- 注意: 値は版・量子化・入力サイズ・前後処理で変動。tok/s は英語寄り基準のため、日本語は char/s で別途実測(下記 ④)。
① LLM 実測:GPU vs CPU(tok/s・モデルサイズ別)
同一機内で num_gpu=0 によりCPU実行に切り替えて比較。倍率=GPU÷CPU。
| デバイス | メモリ | モデル | GPU tok/s | CPU tok/s | 倍率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ノートPC RTX 4060 | 専用VRAM(GDDR6) | 0.5B | 320 | 115 | ×2.8 |
| ノートPC RTX 4060 | 専用VRAM(GDDR6) | 3B | 107 | 27 | ×4.0 |
| ノートPC RTX 4060 | 専用VRAM(GDDR6) | 7B | 52 | 13 | ×4.2最大 |
| ノートPC RTX 4060 | 専用VRAM(GDDR6) | 14B | 13.9 | 6.4 | ×2.2VRAM超過で低下 |
| Mac mini M4 | 統合(LPDDR5) | 0.5B | 157 | 138 | ×1.1 |
| Mac mini M4 | 統合(LPDDR5) | 7B | 22.4 | 15.6 | ×1.4 |
| Mac mini M4 | 統合(LPDDR5) | 14B | 11.7 | 7.1 | ×1.7 |
| Jetson Orin Nano | 統合(LPDDR5) | 0.8B | 9.2 | 9.9 | ×0.9GPU≒CPU |
| Jetson Orin Nano | 統合(LPDDR5) | 2B | 7.0 | 11.3 | ×0.6GPUが遅い |
| Raspberry Pi 5 | GPUなし(CPU) | 1.5B | — | 11.4 | —CPUのみ |
② NPU 実測:Hailo-10H のビジョンFPS
40 TOPSの専用NPU(Raspberry Pi 5 + Hailo-10H)。真価はビジョン推論の高FPS・低電力(生成AIの実測は下記②b)。
| モデル | タスク | 実測FPS |
|---|---|---|
| YOLOv11m | 物体検出 | 71 |
| YOLOv8m | 物体検出 | 76 |
| YOLOv8s-pose | 姿勢推定 | 157 |
| ResNet-50 | 画像分類 | 308 |
②b NPU 実測:Hailo-10H (AI HAT+2) の生成AI(LLM)
2026-01発売のAI HAT+2はHailo-10H NPUにHailo公式のOllama互換サーバhailo-ollamaを組み合わせるとLLM推論が可能。 同一Pi5上のCPU実行(素のOllama)と比較しました。結果はモデル次第で入れ替わり、「40 TOPSだから常に速い」は成立しません。
💬 LLMへの質問
(Raspberry Pi 5 + AI HAT+2)
汎用ツール
Ollama / llama.cpp(GGUF)
🖥️ CPU実行
NPU(Hailo-10H)は使われない
Hailo公式ツール
hailo-ollama
🧠 Hailo-10H NPU実行
実測: モデル次第でCPUより速い/遅い
「Hailo=ビジョン専用でLLMは動かせない」は汎用ツール経由の場合の話。 Hailo公式のGenAI専用ツールを使えば、Hailo-10H(AI HAT+2)限定でNPU上のLLM推論もできる。
| モデル | NPU (hailo-ollama) tok/s | CPU (素のOllama) tok/s | 備考 |
|---|---|---|---|
| Llama 3.2 1B | 9.69 | 8.72 | NPUが約11%速い |
| Qwen2.5 1.5B | 7.23 | 11.76 | CPUが約63%速い |
Llama 3.2 1B
Qwen2.5 1.5B
実測: 2026-07、Raspberry Pi 5 + AI HAT+2(Hailo-10H・HailoRT 5.3.0・hailo-ollama 0.5.1)。/api/chat(同一プロンプト・num_predict=80)で1回ウォームアップ後に1回計測(複数回平均ではない)。Qwen2.5のNPU出力にごく軽微な文字化けを確認。公式パッケージ(hailo-gen-ai-model-zoo)にVLMモデルは含まれず、Hailoが謳うVLM対応はこの範囲では未確認。詳しいセットアップ手順はHailo-10Hレビューを参照。経験則(要検証・単発計測)。
③ 公称 vs 実測(RTX 4060 Laptop)
同じ「RTX 4060 Laptop」でも、OEMの電力設計で実性能は変わります。
| 項目 | 公称(NVIDIA) | 実機実測 |
|---|---|---|
| TGP(電力上限) | 最大115W(35〜115W可変) | 最大95W/既定60W |
| GPUブーストクロック | 最大 2370MHz | 負荷時 約2600MHz(公称超) |
| 消費電力 | — | アイドル12.86W → LLM生成中ピーク約70W |
| AI性能 | 233 AI TOPS(INT8理論ピーク) | LLM 0.5B ≈ 320 tok/s(GPU) |
④ 日本語 char/s — tok/s の落とし穴
日本語ユーザーが体感するのは「1秒あたり何文字出るか(char/s)」であって tok/s ではありません。 そして日本語は同じ tok/s でも出る文字数が英語より大幅に少ない——これを実機で確認しました。
同一モデル・同一機・同じ tok/s でも、見える文字数は約1/3.5(RTX 4060 / qwen2.5:7B)
| 言語 | tok/s | char/s | 文字/トークン |
|---|---|---|---|
| 英語 | 52 | 287 | 5.5 |
| 日本語 | 52 | 81 | 1.55 |
同じ「52 tok/s」でも、英語は約287文字/秒・日本語は約81文字/秒。日本語は1トークンが約1.5文字(英語は約5.5文字)なので、tok/s表記は日本語ユーザーにとって実速度を約3.5倍過大に見せます。
| デバイス | モデル | tok/s | char/s(日本語) | 文字/トークン |
|---|---|---|---|---|
| ノートPC RTX 4060 (GPU) | qwen2.5:0.5B | 325 | 520 | 1.6 |
| ノートPC RTX 4060 (GPU) | qwen2.5:7B | 52 | 81 | 1.55 |
| Mac mini M4 (Metal) | qwen2.5:0.5B | 154 | 234 | 1.51 |
| Mac mini M4 (Metal) | qwen2.5:7B | 22.5 | 34 | 1.50 |
| Jetson Orin Nano | qwen2.5:1.5B | 35 | 56 | 1.58 |
| Raspberry Pi 5 (CPU) | qwen2.5:1.5B | 11 | 18 | 1.60 |
実用の目安:日本語の黙読は概ね 7〜10 文字/秒(経験則・要検証)。つまり Pi 5 の約18文字/秒でも「読む速さより速い」=実用圏。 ノートやMac(数十〜数百文字/秒)は待ち時間ほぼゼロ。日本語では char/s で見れば「どの機材が快適か」が正しく分かります。
⑤ 音声認識(Whisper)実測 — 実時間の何倍速か
27秒の日本語音声を transformers の Whisper(fp16)で文字起こしし、x実時間(音声長÷処理時間)とCER(文字誤り率)を実測(RTX A6000)。 いずれも実時間の17〜35倍速、large-v3-turboは最速クラスかつ最精度でした。音声認識はLLM生成より軽く、エッジでも実用十分です。
| Whisperモデル | 処理時間 | x実時間 | RTF | CER(%) |
|---|---|---|---|---|
| whisper-base | 0.79s | 34.6× | 0.029 | 5.5 |
| whisper-small | 1.57s | 17.3× | 0.058 | 7.9 |
| whisper-large-v3-turbo | 0.79s | 34.4× | 0.029 | 4.7 |
実測: 2026-06、RTX A6000・27.3秒の日本語音声(edge-tts合成)・transformers ASRパイプライン(fp16)・ウォームアップ後計測。x実時間=音声長÷処理時間。 CERは1クリップ・クリーンな合成音声での参考値(実環境の雑音や長尺では変動・要検証)。再現: scripts/bench-whisper.py。
⑥ ローカルLLM横断 — 同サイズ帯で日本語が速い・きれいなのは?
同サイズ帯(7〜8B・Q4_K_M)の主要ファミリーを同一和文プロンプトでA6000実測。char/sは qwen2.5 ≒ llama3.1 > mistral。 注目は品質で、簡体字の混入は Qwen系を含め全モデルでゼロでした(→ 日本語純度を裏づけ)。出力の癖はモデルごとに異なります。
| モデル | 系統 | char/s | tok/s | かな比率 | 簡体字 | 癖 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| qwen2.5:7b | Alibaba | 169 | 119 | 0.63 | 0 | — |
| llama3.1:8b | Meta | 162 | 113 | 0.64 | 0 | Markdown多用 |
| mistral:7b | Mistral | 138 | 124 | 0.74 | 0 | 英語混じり |
実測: 2026-06、RTX A6000・Ollama /api/generate(num_predict=256・同一和文プロンプト)。 thinking型(lfm2.5等)は思考を英語で出すため日本語char/s比較からは除外。値は版・量子化・プロンプトで変動(要検証)。再現: scripts/bench-quant-charsec.mjs。
⑦ VLM(画像理解)実測 — 画像を日本語で説明する速さと正確さ
1枚の写真を「日本語で説明して」とVLMに依頼し、A6000で応答時間を実測。Qwen2.5-VL は 3B/7B とも約1〜1.6秒で被写体を正確に同定(猫2匹・テレビのリモコン・ソファ)。 一方極小のSmolVLM-256Mは指示を反復するだけで説明できず=VLMはモデルサイズが品質の下限を決めます。
| VLMモデル | 応答時間 | 出力 | 結果(日本語説明) |
|---|---|---|---|
| Qwen2.5-VL-3B | 0.93s | 33字 | ✅ 正確(猫2匹・リモコン・ソファを同定) |
| Qwen2.5-VL-7B | 1.61s | 64字 | ✅ 正確・より詳細 |
| SmolVLM-256M | 1.74s | 30字 | ❌ 指示を反復し説明できず(256Mは小さすぎ) |
実測: 2026-06、RTX A6000・transformers image-text-to-text(fp16)・max_new_tokens=64・ウォームアップ後計測。応答時間は出力長で変動(モデルにより早期終了)。 パブリック画像1枚での参考測定(要検証)。再現: scripts/bench-vlm.py。
測定機材と立ち位置
Raspberry Pi 5 + Hailo-10H (AI HAT+2)
ビジョンNPU(40 TOPS)+GenAI
YOLO等を70+ FPS・低電力。汎用OllamaのLLMはCPU実行(約11 tok/s)だが、Hailo公式ツールhailo-ollama経由ならNPUでもLLMが動く(実測は伯仲〜CPU優位、下記②b)。
Jetson Orin Nano Super
ARM + CUDA
統合メモリで小型LLMはGPU優位が出にくい(≦1倍)。CUDA資産・産業定番。
Mac mini M4 (16GB)
Apple Silicon / Metal
統合メモリでLLM中速・省設定。14Bまでフル。GPU優位は1.1〜1.7倍と小。
ノートPC RTX 4060 Laptop
専用VRAM dGPU
小型LLM最速(0.5B 320 tok/s)。7Bで×4.2、14BはVRAM超過で×2.2に低下。
実測カルテ — GO/NO-GO判定の記録
上記のベンチとは別に、特定の業務課題(指差呼称の記録)を題材に「事前に決めた基準を満たすか」を検証した実測カルテです。判定基準・実測値・そこから言えないことまでを1本ずつ公開します。
深掘り・関連
本ベンチで使ったエッジAI機材
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Raspberry Pi AI HAT+2(Hailo-10H)
2026年1月発売の公式GenAIアドオン。40 TOPS・8GB専用オンボードRAM搭載。hailo-ollama経由でNPU上のLLM推論にも対応(実測はHailo-10Hレビュー参照)。
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適用範囲と要検証事項
- tok/s は英語寄りプロンプト基準。日本語はトークンが約4倍で体感が変わるため、char/s での再計測が必要(経験則・要検証)。
- モデル系統は各機の手持ちを使用(qwen2.5 / qwen3系)。倍率は各デバイス内のサイズ依存を見る目的で、機種間のtok/s絶対比較は同一モデルで再測すべき。
- Jetsonの14Bはメモリ不足で未測定(8GB統合)。Mac miniの35B/26Bは16GB超過で実用外。
- Hailo FPSは
hailortcli benchmarkのHW値。実アプリは前後処理・カメラI/Oでさらに下がる。 - 単発・バッチ1の推論。サーバ用途のバッチ処理ではGPU優位が拡大し得る。